私には、他人や世界の豊かさに触れれば触れるほど、自分がどこまでも平板で貧しい人間のように感じられる。と同時に、そのような豊かさは、私には強烈な酩酊のような、激しい引力をもって心に去来する。

確かに、貧しくて凝りかまった自分がうち開かれてゆくことは爽快に感じられることもあるが、それを受け入れられない時には耐えがたい嫌悪感を感じてしまう。

うつくしきみどりの貝のまひまひが生殖しておりわが上腕に

そして、自分の足首がかつてあなたの足首でもありえたような気がする、そういう不確かしさへの実感を自分のあらゆる部分に見出すとき、私は自分を守るために他者とのつながりを拒否してしまいたくなる。それはもちろん自分を傷つけることでもあるのだが。

つなぐ手を持たぬ少女が手をつなぐ相手を持たぬ少年とゐる

 

他人を拒否し、自分を損ない続けて幾数十年、空っぽの存在でしかない私という存在に産みつけられた60兆の細胞たちの静けさたるや...

ただ死を延期し続けるだけの存在である私...ああ赦せ過去の私よ、思春期の頃最も憎んでいた大人になってしまったことをどうか赦せ。

 

あをじろくあなたは透けて尖塔の先に季節もまたひとつ死ぬ

海蛇はアクアリウムに揺れておりいかなるnも死を定義せず